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施設機能工学分野の沿革

当施設機能工学分野は農業工学分野の草分け的研究室です.

戦前戦後,高度成長期,バブル期,そして現在と農業水利施設の変遷と共に,多くの研究成果と人材を世に送り出してきました.

今後は,食糧生産に関わる水利施設のみならず,農業・農村環境にかかわる工学的問題に幅広く取り組み,環境保全と人類の発展の調和を成し遂げるための研究開発を目指しています.

★    機能工学および関連組織年代記

京都大学農学部七十年史より,()内は担任教授名)

色が当分野の沿革です.クリックすると,その時代の詳しい研究内容が見れます

 

年代

 

講 座 等

学科等

1923

大正12

京都帝国大学農学部設立

1924

農林工学科設置

大正13

第一講座

(古賀正巳)

 

第二講座

(古賀正巳:兼担)

 

 

 

 

 

 

 

1925

大正14

 

農業工学

第一講座

(古賀正巳

 

農業工学

第二講座

(古賀正巳:

兼担)

農業機械

学講座

(田村豊)

林業工学

第一講座

(村上恵二)

 

1926

昭和1

 

林業工学

第二講座

(梶田茂)

1936

昭和 11

可知貫一

1937

昭和 12

高月豊一

(可知貫一)

 

1945

昭和20

(高月豊一:兼担)

1949

昭和24

(大枝益賢)

 

1953

昭和28

学 制 改 革

京都大学農学部・農業工学科に改編

 

 

他学科へ

1959

昭和34

沢田敏男

 

 

1960

昭和35

(増田正三)

 

 

1961

昭和36

(冨士岡義一)

 

 

 

○新設

 

1963

昭和38

農業施設および農業水利学講座

(沢田敏男)

土地改良および農地造成学講座

(冨士岡義一)

農用原動機

学講座

(増田正三)

農用作業機

械学講座

(川村登)

 

 

<

農業機械系講座へ

 

 

 

|→→

→○新設

 

1966

昭和41

 

 

 

かんがい

排水学講座

(冨士岡義一)

農地計画学

講座

(西口 猛)

 

 

|→→

→○新設

 

1968

昭和43

農業施設

工学講座

(沢田敏男)

水利工学

講座

(南 勲)

 

 

 

1973

昭和48

(丸山利輔)

 

 

 

1980

昭和55

(長谷川高士)

|

|

○新設:熱帯農学専攻内

1981

昭和56

地域計画論

講座

(北村貞太郎)

 

1988

昭和63

(高橋 強)

 

1992

平成4

(長谷川

高士:兼担)

 

1995

大学院・学部の改組再編:大学院農学研究科地域環境科学専攻内

平成7

地域環境開発工学講座

地域環境管理学講座

究京

科都

地大

域学

環大

境学

科院

学農

専学

 

施設機能工

学分野

(長谷川高士)

水資源利用

工学分野

(河地利彦)

水環境工学

分野

(丸山利輔)

農村計画学

分野

(高橋 強)

地域計画学

分野

(北村貞太郎)

 

1997

平成9

(三野 徹)

(小林慎太郎)

1998

平成10

青山咸康

 

 

★ 研究室変遷の歴史

○ 上の年代記からも分かるように現施設機能工学の前身は、1924年に創設された京都帝国大学農学部・農林工学科の農業工学第一講座(担任:古賀正巳教授)である。この創設期は農業土木学の祖といわれる上野英三郎が東京帝国大学農科大学の講師となり農学第二講座を分担し農業土木学講義を開講してから24年目のことである。上野は「農業工学」という概念を提唱したといわれるが、京都帝国大学農学部・農林工学科の上記2〜3つの講座はその思想を具体化したものとなっている。この時期、上野の農業土木学創生に関する熱意がようやく社会的に認知されてきたものと思われる。

○ 創生期の農林工学第一講座(担任:古賀正己教授,可知貫一教授:1924〜1937)
この講座の主たる研究課題は農業水利学農業造構学に関わるものである。農業水利学は水田農業主体の我が国農業における水の積極的利用と消極的処理の二方面に渡り理論と方策が探求された。農業造構学という用語は上野英三郎が多年東京帝国大学農学部で行った講義を通じて体系化した学問分野の名称であり、上野は「この学科は構造学でなく造構学である。必ず農業土木学の修得者が講義すべき学である」と言ったと伝えられている。具体的には営農のため必要となるあらゆる種類の土木建造物に関する事柄を包含するものと解されている。実際には灌漑、排水に伴う水利構造物を主たる研究課題としていた。この基本の研究課題は現在まで引き継がれている。
現在分かっているこの期の具体的研究課題は以下の通りである。
・水稲の育成時期と浸水深の関係および浸水の清濁による影響に関する実験的研究
・灌漑用喞笛の放水管に関連した線管の経済的直径
・圃場における水位と葉面蒸発量と浸透に関する実験
・堰堤基礎の浸透流の流動とその揚圧力分布の理論解析
・水の衝撃理論を用いた貯水池余水吐等の,急勾配水路の断面決定法
・静水中に射出される水の運動に関する実験的研究
・我が国稲作期間の降水量に関する統計的研究

○ 高月豊一教授時代(1937〜1959)
 この時期は日本歴史の激動期であり、日本の農業も大きく変貌した時期であった。困難な研究状況の中、食料増産に対する大きな要請を受け、次のような研究課題が取り組まれた。
高月教授:

     「貯水池かんがい計画に関する研究−灌漑用水の消費過程や集水状態の実地調査」

     「既存多数の溜池の設計理論に関する力学及び水理学的研究」

     「北蒙古における河川の総合処理に関する農業水利学的検討」

     「灌漑用貯水池内の温水取水法に関する研究と実験公式の作成」(19501955)

     「頭首工,土堰堤を対象とした水工学的研究」

助教授:沢田敏男(現京都大学名誉教授),大学院生:加藤重一

     「トンネル内水温特性の数式化」

     「開水路における射流分水法の研究」

助教授:沢田敏男:

・「土壌中の浸透に関する研究−流況支配要因とメカニズムの解明,実用浸透解析法の開発」

       沢田敏男教授時代19591979
 この時代は、太平洋戦争により荒廃した国土への度重なる自然災害来襲という悪条件下で、農業生産の拡大要求が強まり、農業水利・農業施設に対する要望が増大し、研究へのモチベーションも高まった。その結果、‘ダムの沢田研’が有名を馳せた。具体的には以下のような課題が取り組まれた。

     教授:沢田,京都大学防災研究所教授:角屋 睦(現京都大学名誉教授):「水文諸量に関する研究−(農地防災及び有効水利用の観点からの)降水流出解析,損失機構,広域水収支についての広範な調査,その統計処理の体系化」(19571961

     助教授:南 勲(物故,京都大学名誉教授):「乱流理論に基づく流水機構の解明」(19601964

     本研究は,大学院生:余越正一郎(物故,広島大学名誉教授)、同:田中雅史(現三重大学名誉教授)等に引き継がれた。

     教授:沢田,助教授:南:「大規模模型による現実施設の機能解明実験−ミオ筋形成,土砂吐ゲートの操作法:対象は兵庫県,社頭首工や新潟県,阿賀野川頭首工」(19581962

     「回転風洞装置による淡水湖化施設の模型実験」(19601964

     助手:近森邦英(現高知大学名誉教授):「溜池群に配慮した広域水利用計画の基礎的研究」(19701973

     助手:加納 :「MAC法(水理学の数値解析手法)による干拓堤防締切工の解析」(19741977

 以上のような水利的視点からの研究課題は、1969年、南助教授が新設の水利工学講座担当教授となったことにより、以降水利工学講座で扱われることとなった。

地下浸透に関する課題

     大学院生:大橋行三(物故,愛媛大学名誉教授)「水平互層内の流れ解析」(19741978

     同:近藤 武(物故,三重大学名誉教授)「始動動水勾配の研究」(19731977

     同:岡 太郎(現京都大学名誉教授)「浸透理論におけるフォルヒ・ハイマー則の応用」(19701974

     同:吉武美孝(現愛媛大学名誉教授)「有限要素法による浸透問題の解析法開発」(19751979)。吉武の研究には1985農業土木学会奨励賞が授与された。

施設工学部門:

     教授:沢田,助教授:南:「石川県の大日川ダムの軟弱な凝灰質基礎処理における岩盤改良の範囲と程度の決定」(19641967

     助手:長谷川高士(現京都大学名誉教授):「微弱弾性波を利用する装置の開発」(19661969

     大学院生:桑原孝雄(現大阪府立大学名誉教授):「滋賀県の永源寺ダムにおける弾性波の観測応用」

 

ダム本体に関する研究:

     助手:酒井信一(現信州大学名誉教授)の手回し計算機によりる「富山県の刀利アーチダムの構造解析」(19621966

     教授:沢田,講師:長谷川が「奈良県の大迫アーチダムや新潟県の内ノ倉中空重力ダムの設計に関る石膏模型実験」を駆使し大迫アーチに関して低位部の水平ジョイントの効果を論じた(19651968)。

     大学院生:青山咸康(現京都大学名誉教授):「実ダムを対象として静・動的な力学挙動に対する有限要素法の応用」(19701974)。この研究には1981農業土木学会奨励賞が授与された。

     教授:沢田,大学院生:辻 誠一(元三菱電機KK):「複合ダムである滋賀県の永源寺ダム・接合部分における異材料の力学挙動の解明」(19691971

     教授:沢田,助教授:長谷川,助手:青山等:「兵庫県の呑吐ダムの大規模な断層処理における様々な検討」(19741978

     教授:沢田敏男のこれら業績に対し1983農業土木学会学術賞,日本農学会賞,読売農学賞さらには日本学士院賞が授与された。

     大学院生:尾崎叡司(現神戸大学名誉教授):「厳密理論による農業用板構造の実用解析」(19641968)。

土質工学を中心とする材料力学分野:

     大学院生:鳥山晄司(現島根大学名誉教授):「圧密理論における諸定数の変化を考慮した理論のフィルダム建設への応用」(19661970)。この研究には1980農業土木学会奨励賞が授与された。

     大学院生:島田 清(現東京農工大学教授):「土構造物の変形性解析への有限要素法の応用」(19761980

     同:内田一徳(現神戸大学教授):「初期剪断応力を考慮した砂の動的剪断強度」(19761980

     同:菊沢正裕(現福井県立大学教授):「レオロジーモデルのフォークト体とヒステリシスモデルからなる複合減衰機構」(19801984

 

コンクリート工学分野:

     大学院生:野中資博(現島根大学教授):「コンクリートの温度応力発現機構の有限要素解析」(19761982

 

基礎地盤工学分野:

     助教授:長谷川:「ウインクラー地盤・パスターナーク地盤と呼ばれる理想化された地盤上の梁の実用解法」

     「地盤の不均質・非線形を考慮した解析理論」

     「一般弾性接触問題」

     「重力ダム堤体と基礎の接触応力」(19671975

     「ダム基礎処理範囲決定の最適問題の定式化」(19751980)。この業績に対し1980農業土木学会学術賞が授与された。

     大学院生:服部九二雄(現鳥取大学名誉教授):「頭首工の振動性状を表現する解析モデル」(19691973

     同:篠 和夫(現高知大学名誉教授):「無限に広がりのある地盤に対し弾性解を用いた有限要素」(19701974

 

 

     長谷川高士教授時代19801998
 1979年、教授:沢田敏男は京都大学総長に就任し事後、農業施設工学の担任教授は長谷川高士となった。この時期は高度経済成長期を経て、日本の経済力が国際的にも優位を占める時代を迎えたが、この後バブル経済の破綻を迎え、右肩上がりの思想は是正を余儀なくされるようになった。これにより農業の全産業中の位置付けは大きく変貌し農業構造改善事業は最盛期を迎えてはいたが、最早開発のみを旗印とする時代ではなくなった。そして環境問題が重大化し、事業推進上の困難な状況を打破する新技術の開発が活発化し、特にコンピューターの驚異的進展による、情報処理能力、計算力の躍進が我が分野にも影響を及ぼした。
 技術的にはダム建設適地は枯渇を迎え、従来の設計・施工の変革が求められていた。このような状況下、長谷川は各種構造物の設計手順を体系化し、地域環境の開発整備に果たす農業施設の機能を追求する立場を取った。具体的には以下のような研究内容であった。

ダムに関する研究:

     当時最大級の表面遮水ダムである「深山ロックフィルダム(栃木県)における建造以来の堤体力学挙動実測データの多目的解析」(19821983),

     「浪岡ロックフィルダムにおける原位置振動実験の実施」(19821983

     「内ノ倉ホローダムに生じた温度亀裂を含む堤体の安定問題の弾塑性有限要素法と石膏模型実験による解明」(19831984

     大学院生松本伸介(現高知大学教授):微動計測によるダム振動挙動の解明及び地震時動水圧の解析(19841985


地盤中の浸透問題や地盤工学分野:

     大学院生田中 勉(現神戸大学教授):「フィルタ理論の幅広い展開及びその2次元浸透理論への拡張」(1984〜現在).この業績に対して2000農業土木学会学術賞が授与された。

     森井俊広(現新潟大学教授):「飽和〜不飽和浸透流基づく有限要素法による傾斜遮水ゾーンダムの浸透特性」(19831985

     清水英良(現岐阜大学教授):「土構造物における動的不規則現象の解明」(19791984

     大野 研(現三重大学准教授):「変厚ブランケットの着目した実用公式の提案」

     地下ダムに関る問題であり、さらに「ファジイ理論の浸透問題への応用」を展開(19831985

     このような研究は多孔質地盤や亀裂性岩盤内の浸透流、有効貯水量の決定などを対象とする課題へと移行していった。


土構造物の構造の分野:

     大学院生前野賀彦(現日本大学教授):「ゾーン型フィルダムの築堤解析」,「浅海底地盤の波浪による安定問題に対し実験による算定式」(19811990

     助手菊沢正裕:「変分原理に基づく斜面安定解析理論」

     助教授内田一徳等:「斜面安定解析理論の遠心載荷装置での実証」(19841990

     大学院立石卓彦(現NTCコンサルタンツ):「初期剪断を受ける土の剪断強度」

     助手村上 章(現京都大学教授):「カルマンフィルタ有限要素法」(19841991)。この業績に対し1996土木学会論文賞が授与された(長谷川、浜口共著)

     大学院生西村伸一(現岡山大学教授):「確率有限要素法による斜面安定解析」(19881990

     留学大学院生楊 朝平(現中華大学教授):「締固め機構の異なる状態を室内で再現し、砂の締固に関する広い基礎知識」(19881992

     大学院生木全 卓(現大阪府立大学講師):「平面ひずみ試験器による土のひずみ挙動の静的及び動的な検証」(19931997

     大学院生石井将之(現島根大学准教授):「地下水流の流動解析及び宮古島の皆福地下ダムにおける実証研究」(19941998

     大学院生木山正一(現京都大学助教):「土の塑性状態に関する基礎的研究」(19941998

     大学院生小林範之(現愛媛大学教授):「山留工への計測施工」(19941998


コンクリート構造物の問題:

     大学院生石黒 覚(現三重大学教授):「鉄筋コンクリートの有限要素法による弾塑性解析手法」(19841988

     藤居良夫(現信州大学准教授):「コンクリートの破壊現象を表すに際しエンドクロニック理論の適用」(19861990

     留学生アミール(現スズキ自動車KK):骨組構造物の最適化手法にローゼンブルックス法の改良等を行い「重量最適化/形状最適化」の問題(19841988

     梁 世俊(元北京大学講師):「U字管水路断面の断面最適設計」を当時日本で導入されたばかりの限界状態設計法で行った(19901992

 

景観設計:

     大学院生工藤庸介(現大阪府立大学助教):「ニューラルネットワークを用いた景観の評価法」(1995〜)



 1995年京都大学農学部及び農学研究科は改組により大学院に基礎をおく大学院大学となった。そして農業土木学の分野は新編成の農学研究科中の地域環境科学専攻に属し、旧農業施設工学(小)講座は旧水利工学(小)講座と共に「地域環境開発工学講座」(大講座)を構成するに至った。そして旧農業施設工学講座は施設機能工学分野と名乗ることになった。ここに再度水をめぐる水利と構造工学の手法が連携する場が形成されたのである。

 

     青山咸康教授時代19982006

平成12年に新しい食料・農業・農村基本計画が出され,良好な営農条件を備えた農地及び農業用水を確保し、これらの有効利用を図ることにより、農業の生産性の向上を促進するため、地域の特性に応じて、生態系等の自然環境の保全や美しい景観の形成等環境との調和に配慮しつつ、事業採択に当たっての適切な費用対効果分析等による事業効果の評価を通じた事業の効率的実施が目指された.施設機能工学分野における研究も施設の維持・補修・更新といった事業に対応したものとへ変化していった.また,農業・農村の多面的農の保持も視野に入れた環境問題にも研究課題を拡大していった時代である.このような背景において,施設機能工学分野は,1998年から青山咸康が東京農工大学から教授として赴任し,助教授として2000年に岩手大学から小林 晃が赴任し,このような新たな研究課題に取り組むこととなった.

 

     村上 章教授時代2009  

2009年に岡山大学環境学研究科教授の村上 章が異動するとともに,講師として2012年に岡山大学から藤澤和謙が着任し,新たな研究課題に取り組むこととなった.

★ おわりに

 

21世紀には新しい農業基本法にも基づく食料・農業・農村整備の時代を迎えようとしている。当分野の研究主題もこれに応じて変貌してゆくものと考えられる。しかし基本の研究対象が農業施設であるということは、今後とも大きくは変わらないと考えられる。このような工学的視座を持って長年農学の一分野を形成してきたことに我々は誇りを感じている。農業施設に関する研究は農業生産や地域環境に貢献するものであるが、その基礎部分が広く土木工学全般に及び、国際的、国内的に多くの関連分野との積極的な研究交流を行う必要があり、今までに得た成果も学際的なものである。当分野で得た成果が多面的に農業施設の設計に反映され、その機能が有効に発現されることにより地域・農業・環境に益することを願っている。

   

参考文献  

牧 隆泰:農業土木の始祖上野英三郎博士の足跡,農業土木学会誌,V40No.1p47-591979

京都大学農学部70周年記念事業委員会:京都大学農学部70年史,p302-3081993

   

Last Modified 10 Aug., 2007